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横浜・食の極人 vol.17 横浜の味を創る究極の達人たち

スペイン料理「イザベラ」

それぞれのお店には、その店の味を生み出す究極の達人がいます。このコーナーでは、そうした人びとに直撃インタビューをして、その素顔に迫っていきたいと思います。
17回目の今回は、横浜・関内にあるスペイン料理店「イザベラ」のマネージャー、須永英紀さんです。

食の極人・プロファイル17  「イザベラ」マネージャー須永 英紀さん

写真1イザベラのマネージャーである須永さんは、1962(昭和37)年に福島県で生まれました。高校まで福島で過ごされ、卒業後、大学を目指して上京。しかし結局、大学へは進学せず、仕事から遊びまで様々な経験をしていたそうです。
当時、飲食の仕事をしたいという気持ちはなく、22歳のときに現在も所属している不動産情報会社「アットホーム」に入社。それから20年、ずっと不動産の広告代理業務に携わってきました。
そのころすでに、アットホームの社長である松村文衛さんがその会社とは別にスペイン料理店「イザベラ」を経営しており、須永さんもイザベラの先代の支配人や今も在籍しているスタッフの人たちに誘われて、よく食事に行っていたそうです。やがて、人手が足りなくなる週末などに店を手伝うようになり、そのうちにこちらも仕事になってしまったとのこと。
現在はイザベラの「マネージャー」という肩書きをお持ちですが、「昼間はアットホームで、夜はイザベラで働いています。『二足のわらじ』みたいなものですよ」。
笑顔がやさしい須永さん。すっかり飲食業も板についています。そんな須永さんが、まさに「アットホーム」な雰囲気で、毎日私たちを迎えてくれます。



「福島といっても都会で育ちましたからね。こちらの人たちとあまり変わらない少年時代です。」

写真_2子供のころの須永さんは野球が好きであったそうですが、「まあ、ごく普通の少年でした」と、ご本人。福島の中心街で生まれ育ったとのことで、「買物に行くときだって、セブン・イレブンとかもありましたし、こっちのほうとあまり変わりませんよ」。
その街で中学・高校と十代の思春期を過ごし、大いに青春を謳歌していたそうです。そして、高校卒業を期に上京。高円寺で一人暮らしを始めました。

「自分の新たなステップアップになるのかなと思って、イザベラのマネージャーを引き受けることにしました。」

写真_3大都会の東京で一人暮らしを始めてからは、いろいろな新しい遊びも覚え、楽しく過ごしていたそうですが、22歳のときにアットホームに入社。現在も、昼間はそこで仕事をされています。
アットホームは不動産情報会社ですが、「広告代理店のようなこともしています」。その中で須永さんが担当しているのは不動産広告で、いろいろな代理店と競争しながら仕事を取ってくるということを20年間しているとのこと。
しかし、「実は、イザベラのオーナーはアットホームの社長で、先代の支配人もアットホームの役員だったんですよ。それで僕らもよく飲み会とかに誘われて、この店で食事をしていました」。ところが3年前、イザベラのスタッフの一人が交通事故にあって人手が足りなくなり、「それなら、週末の忙しいときには手伝いますよ」と言ってお店の仕事を手伝い始めたのが、イザベラに関わるきっかけであったそうです。
そののち、昨年(2006年)の2月に先代の支配人が引退することになり、須永さんに白羽の矢があたりました。「マネージャーとしてこの店を成功させることができれば、自分の新たなステップアップになるのかな、と思って引き受けてみることにしました」と、須永さん。こうして、イザベラとアットホームという「二足のわらじ」の生活が始まりました。

「イザベラでの接客の経験が、不動産広告の仕事でも生きてくる。こうした循環で、仕事のマンネリ化が防げます。」

写真_4イザベラのマネージャーを引き受けて1年が過ぎる須永さんですが、この店の仕事で特に楽しいのは接客であるということです。
「昼の仕事(不動産広告)は営業なんですが、イザベラでの仕事と基本的なところは一緒なんですよ。営業は自分の企画が通るようにお客様のことをいろいろと考えなければなりませんが、『こういう人には、こういう風に接して』というのがイザベラで接客をしているとよくわかります。それが昼の営業でも生きてくる」。昼の営業、夜の接客の双方が、それぞれお互いの新たなヒントになり、仕事のマンネリ化を防ぐことができるといいます。
そんな須永さんがイザベラのマネージャーとしてこだわっていることは、「お客様から美味しかったよと言われるようにすることですね」。例えばデミグラスソース1つにしても1ヶ月かけて仕込んだ逸品で、料理には自信を持っているそうですが、料理の美味しさは料理自体の味だけではなく、店の雰囲気や接客のよさが加わって決まるもの。こうした美味しさを創りだす方程式を、常に突き詰めて考えているということです。

「お客様が普通にいらして、普通に帰ってくださる。そして、そのうちに自然と何年も通っている。これが理想です。」

写真_3須永さんが目指す店づくりについて伺うと、「イザベラは開店してからもう37年になります。この先も50年、60年と続く店にしたい。それには、変わらないことが大切なんじゃないでしょうか」とのお答え。「『この店、前からあるのは知ってたんだけど、なかなか来れなくてね』と言われるような感じでも構わないんですよね。とにかく、皆さんの意識の中にずっと長く根づいている店でありたい」。
さらに、「第一に大切なのは味と値段です。接客についてはアルバイトのスタッフも含め、普通のことをやってくれれば何の問題もありません。過剰に接客を意識し、過剰なパフォーマンスをする必要はないと思っています。お客様が普通にいらして、普通に帰ってくださるというのが一番です。そして、そのうちに自然と何年も通っている、というかたちになっていくことが理想です」。
あくまで普通に、あくまで自然に。実は最も難しいことなのかもしれませんが、それを目指して当たり前のことをしっかりと行っていく、それこそが長く続く店の秘訣であると教えていただきました。

「変わらぬ味を守り、押し付けの主張をせずにやっていきます。よい雰囲気の中で過ごしたいというシーンで、ぜひご利用ください。」

写真_6「横浜には中華料理だけでなく、ドイツ料理や北欧料理など、いろいろな国の料理を出す名店がある。この街には、昔からそういうものがよく似あう文化がありますよね」と、須永さん。確かに、エキゾチックな雰囲気が満ちているイザベラも、横浜にあるからこそ恰好のつく店なのではないでしょうか。
しかし、それでも開店当初は受け入れられずに苦労したこともあったそうです。
「先代の支配人から聞いた話ですが、スペインバール(スペインの居酒屋)にはトルティージャという分厚い冷たいオムレツがあります。開店当初のころ、それを出したのですが、『何で冷たいものを食わせるんだ』とお客様に叱られたそうです。日本では、冷たいオムレツが受け入れられなかったんですね。そこで、温かいオムレツにして、トマトソースをかけるスタイルに変えたということです」。もっとも、客の中にはスペイン通もいて、「冷たいオムレツがいい」という人もいるそうです。
かくして40年近く、工夫を重ねながらも基本の味は守り通してきたイザベラ。「これからも変わらぬ味を守り、押し付けの主張をせずにやっていきます。よい雰囲気の中で過ごしたいというシーンで、皆さまにご利用いただける店にしたいと思っていますので、ぜひ一度お越しください」というメッセージを、最後にいただきました。

料理長・小澤 明さんからのメッセージ

今回は、料理長である小澤明さんにもインタビューに応じていただくことができました。そこで、最初に料理についてのこだわりを伺うと、「あえて一言でいうなら、心がこもっている料理です」とのお答え。例えば、デミグラスソースは、料理長自身が1ヶ月もかけて仕込んでいるそうです。
しかし、「実は、お出ししている料理の中には家庭でも作れるものも結構あります。お客様から『教えて』と言われることもあるのですが、教えて差し上げると実際に作られる方もいます」。もちろん、そこにはプロの技が隠されているのですが、家庭的で自然な味、わざとらしくない料理がイザベラの最大の魅力です。
また、メニューは時代にあわせて多少変えているそうですが、「全部変えるとだめなんですよね。『昔あった何々が食べたい』というお客様もいるんです。基本的には先代のチーフから受け継いだ味を変えないようにやってきているから、ずっと前に来られたお客様にも『まだこれがあるんだ』と喜んでいただけます」。
そして、「自己主張をあまりしないで、誰にも自然に受け入れられるような店のほうが長く続いていくと考えています。ずっと長く続いている店としてお客様に覚えていただけるようになりたい」と、これからの目標を語ってくださいました。

オーナー・松村文衛さんからのメッセージ

オーナーである松村文衛さん(アットホーム株式会社・代表取締役社長)からも、メッセージをいただきました。
「私がまだサラリーマンであったころ、仕事で訪れたアメリカのニュージャージー州にあるスペイン街、ホボケンで食べたスペイン料理の味が忘れられず、この横浜にスペイン料理店・イザベラを開店しました。以来、『お客様に自慢できる料理を提供すること』を旨とし、地元である横浜の方々にご愛顧いただくことはもちろん、全国区のスペイン料理店へと発展させたいと願い、頑張っております。日本におけるスペイン料理店の元祖の一店舗として、横浜の名物は中華料理店ばかりではないという意気込みと誇りを持っています。ぜひ一度お越しください。」






インタビューを終えて

今回の取材では、「変えない」ということが「変える」ことよりも難しいという事実を学びました。イザベラは開店して40年近くになりますが、ずっと同じ場所で、味やメニューも大切に守り続けています。変化や革新がことさらに求められ、皆が次々に新しいものに飛びついてはすぐに飽きていく時代。そうした中で、一つのものをしっかりと守ってきたオーナーやスタッフの方々の努力には、あらためて頭が下がります。
もっとも、「変えない」ということは「工夫をしない」ということではありません。受け継がれてきた味を守りつつ、しかし「料理を飽きさせないように味付けを工夫してきた」と、料理長の小澤さんから伺いました。実は、「変えたように感じさせない」ということに、スタッフの方々が一丸となって取り組んできたのです。
また、小澤料理長はインタビューの中で、「心がこもった料理」にこだわっているとお答えになりました。イザベラの店内はスペインに由来する調度品や装飾品が置かれ、異国情緒に満ちており、私たちにとっては非日常的な空間です。しかし、そこには家庭的なあたたかさが満ち溢れています。それはきっと、「心」という極上のスパイスが入った料理と、須永さんたちによる普通でさりげない「心遣い」によって醸し出されているのではないかと思います。
太陽の国といわれるスペイン。その国の料理を40年近くにわたって提供し続けているイザベラ。それは、スタッフの方々の「心」という太陽で、訪れた私たちをあたたかく包んでくれるお店です。
(横濱まちづくり倶楽部会員・田代 瞬)

シックだけれどもあたたかい雰囲気に包まれた店内で、ひときわやさしい笑顔で私たちを迎えてくださる須永さん。その須永さんは、昼間はアットホーム社で不動産広告の仕事、夜はイザベラのマネージャーという二足のわらじを履いて頑張られています。昼と夜、異なる仕事をこなしているので、さぞかし大変なのではないかと思いましたが、夜の仕事(イザベラでの接客)で学んだことを昼の仕事(不動産広告の営業)に活かせるのでよいとのお答え。その前向きな姿勢は、率直に「カッコイイ!」と思います。
インタビューの中で、須永さんは「お客様に対して過剰なパフォーマンスをしない」ということを強調しておられました。「お客様が普通にいらして、普通に帰ってくださる。そして、そのうちに自然と何年も通っている、というかたちになることが理想」とのこと。一見、消極的なイメージですが、実はこれこそが日本的なさりげない心遣いの極みであり、最も高度なサービスなのではないでしょうか。
須永さんは、非常に控えめな方でした。しかし、仕事に対する内に秘めた情熱とエネルギーはすごい方です。今回お会いして、どんな仕事でもチャンスと考え、積極的に楽しむという姿勢を学びました。私はまだ大学生ですが、やがて社会に出たときに、それを手本にさせていただきます。
(同・山田雅浩)

大通りに面したオープンカフェスタイルのバーの脇を入り、少し奥まったところにひっそりとあるイザベラ。日常の喧騒から解放されて、ゆったりとした時間を過ごしたい大人のための隠れ家です。その店内はやさしい照明に包まれており、地中海がイメージされた内装が広がっています。また、さりげなく飾られた古めかしいポスターやオブジェなどが重厚な雰囲気を作り上げていますが、高級レストランのようなよそよそしさはなく、スペインのまちなかにある地元の人たちが集う店のような素朴さがあります。
マネージャーである須永さんのお話を伺って、イザベラのもつ柔らかで素朴な雰囲気の理由がわかったような気がします。インタビューの中で須永さんは、「飽きられないように、主張し過ぎないように」と繰り返し言っておられました。また、最先端を走るような店ではなく、普通に来店し帰ってもらえる、流行り廃りのない店にしていくことが大切とも話してくださいました。そんな気負いのないさりげなさが、イザベラのソフトなムードを醸成しているのでしょう。
もうすぐ開店して40年。この老舗を支えているのは、訪れた人びとへのお仕着せのない愛情と謙虚さを忘れないスタッフの方々の精神であるということを学びました。
(横浜商科大学学生・渡邊理沙)

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