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横浜・食の極人 vol.13 横浜の味を創る究極の達人たち

日本料理「遊膳 ささ田」

それぞれの店には、その店の味を生み出す究極の達人がいます。このコーナーでは、そうした人びとに直撃インタビューをして、その素顔に迫っていきたいと思います。
13回目の今回は、横浜の蒔田にある日本料理店「遊膳 ささ田」の女将、笹田祝子さんです。

食の極人・プロファイル13 「遊膳 ささ田」女将 笹田 祝子さん

写真1 「ささ田」の女将である笹田祝子さんは1947(昭和22)年、静岡県で生まれ、海と山の大自然に囲まれて幼少期を過ごされました。しかし、小学校に入学するときに東京都大田区の蒲田へ引っ越し、区内の小学校、中学校へと進んだそうです。
 そうしたなか、中学3年生のとき、お姉様が勤めていたコーヒー店で店のお手伝いを経験しました。もともと明るい性格であった女将さんは店の人たちやお客さんと接することがすんなりでき、「こんな仕事も楽しいなぁ」と思うようになったといいます。
 高校に進学すると、学校が休みの日に本格的にアルバイトをするようになり、それがサービス業の仕事に就くきっかけとなりました。そして、「それからは色々な世界を見てきましたね。色んな仕事をいっぱい経験しました」。
 その後、ご結婚になり、しばらくは主婦業に専念していました。しかし、子育てが一段落ついた頃から、「自分の店を出す」という昔からの夢を叶えたいと思うようになったそうです。かくして1997(平成9)年、「ささ田」を開店。いつも心温まるもてなしで、私たちを迎えてくださいます。



「小さい頃は、自然の中で獲れた“本物”といえるものを食べていました。」

 女将さんがお生まれになったのは静岡県の蒲原。前は海、後は山という大自然に囲まれ、天からの恵みである美味しい食べ物が豊富にある中で育ったそうです。
 少女時代のお話を伺うと、「小さい頃はいつも、本当に“本物”といえるものを食べていました。みかんだとか、野いちごだとか、沢ガニだとか、その季節季節に自然の中で獲れるものを食べていましたし、桜えびとかシラスは漁を手伝うと小遣い代わりにもらっていました。直接、網の中から手でつまんでいたんですよ」とのこと。
 しかし、東京に引っ越してくると、都会の食べ物に違和感を覚えるようになり、次第に「田舎で食べていたものとの味の違いが許せなくなっていきました」。そして、「何でこんないい加減なものや、加工されて美味しくなくなったようなものを、みんな平気で食べているんだろう?」と、子供心に疑問を感じるようになったそうです。

「“本物”といえる建物を守るために、自分が納得できる“本物”の料理を出す飲食店を始めようと決心しました。」

写真_2 「ささ田」の店の建物は昭和初期に建てられ、今では日本の建築史においても重要な建物となっています。「結婚して、縁があってこれを受け継ぐことになりましたが、この建物もまさしく“本物”ですよね。だから、守っていきたいのです」。
 伝統ある貴重な建物を維持する手間は大変なものでした。化学雑巾などは使えず、用いられている建材の材質にあった昔ながらの手入れの仕方を自ら研究し、試行錯誤を重ねました。「私はどちらかというと行動派なものですから、教科書も何もなくても自分の体で覚えていきました」と、女将さんはこれまでの苦労を振り返ります。
 また、屋根の鬼瓦や窓のダイヤガラスなど、今ではそれを作る職人がほとんどいなくなってしまったような建材も多く使われており、建物を維持する費用も大変な負担でした。「とにかくお金がかかるということを身にしみて感じました。でも、これを息子や娘にも受け継いでほしいから、彼らが受け継いでいけるようにしなければならないと思ったのです」。そこで、女将さんは「維持にお金がかかるなら、この建物がお金を生み出すようにすればいい」と考えるようになります。

 「皆さんが納得してお金を出してくれるようにするには、どうしたらいいんだろうか?」。それを考えているうちに、女将さんはかつて接客が好きであったことや、幼い頃から食べ物に関心があり、今でも食べ歩きを趣味にしていることに思い当たります。そして、「飲食店をやってみよう」と決意しました。
 しかし、「私にもプライドがあり、自分が納得できないものをお客様に提供し、それでお金をいただくことは許せませんでした」。そんなとき知人からの紹介で、後に「ささ田」の初代料理長になる林田幸子さんとの出会いがあります。
 彼女は横浜の青葉台で、長崎のしっぽく料理の店を開いていました。行動派である女将さんは、紹介を受けるとすぐに彼女の店へおもむきます。果たして、「納得できないような料理ばかりが世の中に出回っているので疑問を感じていたところに、彼女の料理と出会いました。家庭的なぬくもりがあって、それでいておしゃれで美味しい。すぐに惚れ込みました」。
 かくして、自分の考えを具現化してくれる最強のパートナーを見つけ、「自分の店を出す」という女将さんの若かりし日の夢が、一気に花開きます。

「お客様への感謝が常に心の中にあれば、言葉で飾らなくても伝わっていきます。」

写真_3 女将さんが最も大切にしていることは、「お客様とのふれあい」であるそうです。「料理も、店内の内装や調度品も、もちろんお客様をお迎えするうえで重要です。しかし、商売はお客様あってのものですから、お客様にいかに満足していただけるか、喜んでいただけるかが最も重要なのです。それには、お客様とのふれあいを大切にし、“目配り”、“気配り”、“心配り”をさりげなく感じていただけるようにしなければなりません」。
 さらに、「言葉で綺麗なことはいくらでも言えます。しかし、いいものはいいし、美味しいものは美味しい。余計な言葉はいらないんです。一生懸命やっていれば、それは自然と通じます。お客様への感謝が常に心の中にあれば、それは言葉で飾らなくても伝わっていきます」と、真剣な目で語ってくださいました。
 そんな女将さんは毎日、客が今日は何を求めて来ているのかをなるべく早くキャッチすることを心がけて店に立っているそうです。

 こうしたこだわりを持ち続ける女将さんにとって最も嬉しいのは、「旅行に行かれたお客様が、『これを召し上がって』とお土産を買ってきてくださったときですね」とのこと。「客」と「経営者」という垣根が取り払われた瞬間を実感することができ、このうえなく嬉しい気持ちになるそうです。「お土産を買ってきてくださるということは、私の存在が旅先でもその方の心の中にあるってことですよね。私にとって、それはかけがえのない財産です」。

「遊び心を持って、伝統とか古来のしきたりというものを少し崩してみたら面白いのではないでしょうか。」

写真_4 「ささ田」の魅力は、伝統と格式が感じられる店構え、現代的で洗練された雰囲気の店内、家庭的でぬくもりのある料理とおもてなし、の3つが醸し出す「意外性」です。一見ミスマッチと思えるこれら3つの要素が「遊」(すなわち、遊び)というコンセプトによって一体化し、「ささ田」ならではの世界が創り上げられています。
 「外から見ると敷居が高い店なのに、中に入ってみると現代的で家庭的。そのギャップを楽しんでいただきたいと思っています。そのためには、私たちが常に『遊び心』を持ってお客様に接することが大切です。遊び心を持って、伝統とか古来のしきたりというものを少し崩してみたら面白いのではないでしょうか。ですから、お出しする料理も、伝統的な『懐石料理』を敢えて少し崩しています」と、女将さんはおっしゃいます。
 店名の上に掲げられている「遊膳」という言葉には、「うちは遊び心を持った料理屋ですよ」という意味が込められているそうです。また、用意されているコースにも、「すごろく」や「かくれんぼ」など、昔懐かしい遊びの名前がつけられています。

「お客様も、私の店で新たな価値観を育てながらお年を召していっていただけるようにしたいです。」

 今後の目標や抱負についてお伺いすると、「とにかく健康でありたい」というお答えが最初に返ってきました。「これからも、まず自分自身が楽しみたいんです。自分が楽しめるから、お客様にも楽しんでいただけるのです。それには私が健康でなければなりません」。
 また、「お客様には、まず一度、店に来ていただきたい。実際に来て、ご自分で『ささ田』がよいか悪いか判断していただきたいと思います。そして、気に入られたらまた来てください、またお会いしましょうという感じでやっていきたいのです。私が店の広告をあまりやらないのは、言葉や活字で判断していただきたくないからです」と、続けてくださいました。
 そして最後に、「私自身もまだ育っていきたい。料理人やスタッフもさらに育ってほしい。そしてお客様も、私の店で新たな価値観を育てながらお年を召していっていただけるようにしたいですね。そのために、これからも全力投球で努力します」という力強いメッセージをいただきました。






インタビューを終えて

「ささ田」は「遊膳」というコンセプトのとおり、内外装や調度品ばかりでなく料理や接客サービスにも「遊び心」がスパイスとして効いており、重厚な外観とは異なって非常に和やかで、癒されるお店でした。また、女将さんのお人柄も「ささ田」の大きな魅力の1つです。接客というものに対する確固とした信念を持ち、プロフェッショナルとしての厳しさを備えながらも、ソフトで温かく、私たちに対して母親のような接し方をしてくださる女将さんに、私は強い感銘を受けました。
現在、私は一人暮らしをしていますが、今回の取材をとおして女将さんと知りあうことができ、横浜に第二の母親ができたような気持ちです。またぜひ、お店にお伺いしたいと思います。
(横濱まちづくり倶楽部会員・杉山 卓)

「ささ田」のお店は歴史ある建物で、伝統と格式の感じられる外観でありながら、店の中はアットホームな雰囲気です。その意外性が大きな魅力なのですが、それはこの店で出される料理にも共通しています。見た目は綺麗で、かしこまったイメージなのに、口に運ぶと優しい味で、心がホッとするようなぬくもりのある料理でした。
また、そもそもコースの献立自体にも驚かされました。伝統的な懐石料理を基本として組み立てられたコースの中に突然、家庭料理の代表ともいえるコロッケが現れるのです。これは女将さんによる「遊び心」の演出なのですが、私はそれに深く感心しました。究極のところ、人の心を癒す料理は、ほとんどの人が毎日のように食べてきた「お袋の味」なのではないでしょうか。それを、コースの中にそっとしのばせる心配りには脱帽です。
私にとって「ささ田」は、疲れた心を癒したいときに親しい友人を誘って行く店として、最初に名前の浮かんでくるお店になりました。
(同・田代 瞬)

料理やおもてなし、女将さんのお人柄にも強く心が惹かれましたが、私は「ささ田」のお店自体に目を奪われてしまいました。日本の建築史においても貴重であるというお店は、門構えも、建物の外観も、そして部屋の中のつくりも、「素晴らしい」の一言に尽きます。
また、そうした伝統家屋の使い方のうまさにも感銘を受けました。玄関や、玄関を入ってすぐの部屋は昔ながらの雰囲気をそのまま残してあります。しかし、メインのゲスト・ルームは大きなガラス窓に囲まれた開放的でモダンな空間に仕立てられており、そこに洗練されたデザインのテーブルと椅子。そして、アクセントとして置かれている古民具。こうしたメリハリのあるコントラストには、驚きを超えて感動を覚えます。
また、この部屋から見渡せる庭園も見事です。しっかりと手入れがされており、四季折々で違う表情を見せる美しい花々や木々をめでながら食事を楽しめるようになっています。そして、夜はこの庭にかがり火が灯され、都会の夜景とは異なる幻想的な景色がガラス窓越しに広がります。
古い建物を単に維持するだけではなく、それをうまく活かして、さらに魅力を高めていく。その精神、そしてそれを具現化する手法の一例を学ぶことができ、大変勉強になりました。
(同・山田雅浩)

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