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横浜・食の極人 vol.12 横浜の味を創る究極の達人たち

本格麻婆豆腐専門店「辣(らー)」

それぞれのお店には、そのお店の味を生み出す究極の達人がいます。このコーナーでは、そうした人びとに直撃インタビューをして、その素顔に迫っていきたいと思います。
12回目の今回は、横浜中華街で新しいスタイルの麻婆豆腐専門店「辣」を立ち上げたばかりでなく、横濱まちづくり倶楽部の副会長として横浜の中心市街地の街づくりでも大活躍の近澤弘明さんです。

食の極人・プロファイル12 「辣」オーナー 近澤 弘明さん

本格麻婆豆腐専門店「辣」のオーナーである近澤さんは、1949年に横浜でお生まれになりました。横浜国立大学付属小学校で活発な小学生時代を過ごされた後、慶應義塾大学の中等部へ入学。高等部を経て、同大学の経済学部へ進まれます。
そして、1972年に大学をご卒業後、すぐにご実家である「近沢レース店」に入社されました。その頃、大阪心斎橋のパルコ内に新しい店がオープンしたので、初めにその店へ半年ほど行かれてから横浜に戻ってきたそうです。
その後1978年、社長に就任。社長としてご活躍の一方、同社の本店がある横浜・元町商店街の発展に尽力し、協同組合元町SS会の理事長も務められました。それだけでなく、横浜の中心市街地全体の活性化に対しても様々な提案をしてこられ、2001年に横濱まちづくり倶楽部を設立。現在は副会長として、同倶楽部が手掛ける事業の推進役を果たしていらっしゃいます。

写真1
右側が近澤弘明さん

その一方、美味しいものを食べることが大好きで、「食通」としての顔もお持ちです。そうした近澤さんが惚れ込んだのが、上海で巡りあった新しい中国料理。
四川・湖南料理と上海料理との出会いによって生まれた、この進化した中国料理を洗練されたデザインの空間で提供する。そんな日本の中国料理店にはなかったコンセプトの店をやりたいという思いに駆られ、近澤さんは自らが企画・プロデュースする飲食店の出店を決意します。かくして始まったのが「辣」プロジェクト。
店のロゴ・マーク等のデザインは、横濱まちづくり倶楽部の会員で著名なグラフィック・デザイナーである中川憲造さん、内装の設計もやはり同倶楽部の会員で気鋭の建築家・佐々木龍朗さんが担当するなど、近澤さんの主旨をしっかりと理解した仲間たちがプロジェクトを強力にバックアップ。さらに、上海で最も知られる迎賓館・西郊賓館から高級調理師である張鳴華さんを招き、万全の布陣で2004年11月28日、「辣」はついに開店に至りました。
張さんが創り出す魅惑的な料理の数々、中川さんや佐々木さんが生み出したスタイリッシュな空間、近澤さんが打ち出した斬新なコンセプトは、これまでの横浜中華街にはなかった中国料理店をみごとに実現させ、様々な人たちから注目されています。



「小さい頃はわんぱくでした。家にはいないで、外でずっと夕方まで遊んでいました。」

近澤さんは横浜生まれの横浜育ち。1901(明治34)年に創業した元町の老舗・近沢レース店がご実家です。
少年時代のお話を伺うと、「家で遊んでいるよりも、外で遊んでいるほうが多かったですね。近所の友達と裏山に行ってスズメを捕まえたり、『だるまさんが転んだ』のような遊びや、馬乗りなんかをしていました」とのこと。
また、スポーツがお好きで、小学生の頃は放課後に野球に夢中になり、中学生になるとバスケットボールや陸上競技、ラグビー、アメリカンフットボールをはじめ、様々なスポーツに興味を持ってトライしたそうです。特に長く続けたのがスキーで、まだ幼稚園だった4歳の時から始め、3人のご子息が大きくなるまで連れて行って教えていたということです。

「中国料理店とも洋食店とも異なるモダンなインテリアの店で、いま上海で流行している中国料理を出したら、きっと横浜でも面白いと思ってもらえるはずだと考えました。」

写真_2「30数年間にわたって、たびたび中国に仕事で行き、大陸のいろいろな料理を知りました」という近澤さんが注目したのは、四川省や、毛沢東の出身地である湖南省の料理でした。「四川省や湖南省の料理はとてつもなく辛いものなので、さっぱりとしていて軽い味つけを好む上海人には受けないだろうと思っていました。ところが、いざこれらの地方の料理を出す店が上海にできたら、ものすごくはやったんです」。
オープンな性格で、全国各地のものをすぐに受け入れる土地柄であるという上海ではいま、中国料理店とも洋食店ともいえないようなモダンなインテリアで、食器などにもこだわり、様々な地方の料理がミックスしているようなメニューを出す店が人気であるそうです。
こうした現状が、近澤さんの興味をひきます。「横浜は、上海と非常に性格の似た街です。ですから、いま上海で流行しているような店を、こうした店がまだ1軒もない横浜の中華街に持ってきたらどうなるのか、と思うようになりました」。

実は、近澤さんには飲食店経営の経験やノウハウはなく、「辣」の出店はまったく新しい分野への挑戦でした。しかし、「ヨコハマ・スタイル」との親和性がある、上海の新しい中国料理店を実験してみたいという気持ちに突き動かされたということです。

また、「麻婆豆腐専門店」としたのは、レシピが完成すればチェーン展開が容易であることや、オリジナリティのある味をきちんと確立してスタイリッシュに提供すれば、中国料理の新しいマーケットを拓ける可能性があることに着眼したからだそうです。仕事上よく中国に行かれる近澤さんは、ここ10年の中国の急速な変化を楽しみながらも、一方では経営者としてクールに観察してきました。

「うちの店にくることによって、こういう料理もあるんだという発見をし、料理に対する興味を持ってもらいたいんです。」

近澤さんによれば、「中国人は日本人と顔が似ていますが、メンタリティはまるで違います。彼らの生活の中では、食事というものがものすごく大きなウェイトを占めているんです。だから、彼らは食というものをとても大事にしています」ということです。ですから「辣」でも、近澤さんとシェフの張さんとで徹底的に話しあい、常にこだわりのある料理を用意しています。
中国料理といえば、他国の料理に比べて油を多めに使うのが一般的です。しかし「辣」の料理は、近澤さんと張さんとで相談した結果、油を極力使わない方針でいくことにしているそうです。

「そうすることによって、料理がヘルシーに仕上がります。うちの店は女性客が中心なので、そういう気配りもしています」。実際「辣」は、女性が1〜2人で来店することが多いそうです。これは、中華街の中の店としてはかなり珍しいといいます。
女性をはじめ、様々な人びとに中国料理を楽しんでもらい、通になってほしいという願いが近澤さんにはあります。

写真_3
辣のシェフ・張さん

「こういう風な料理もあるんだ、こんな食べ方もあるんだ、と発見してほしいんです。そして、中国料理をもっと理解してもらいたい。それほど中国料理は種類が多く、奥も深いのです」。
また、「目標は、あの店で食べるより、『辣』で食べるほうが美味しいと言ってもらえるような味をきちんと出していくことです。麻婆豆腐にしても、うちの店が一番と自信を持っていえるレベルを保つことを目指しています」と、力を込めて話してくださいました。

「お客様とコミュニケーションがとれることや、美味しいと言ってもらえることがすごく嬉しい。飲食店をやってよかったと思います。」

写真_4 「飲食店には、必ず常連のお客様ができます。毎日くる人はいなくても、週に1〜2回通ってくれる人がいるので、コミュニケーションがとれて面白い。飲食店をやってよかったと思っています」と近澤さん。特に、美味しいと言ってもらえることは、何にも増す喜びであるそうです。
そのため、1人でも多くの人から美味しいと言ってもらえるよう、サービス・レベルの向上を常に心がけており、「たとえば、美味しく食べていただくには料理を出すタイミングが重要です。しかし、人によって食べるスピードが違うので、誰にあわせて出すかということには非常に気を遣っています」。

また、料理に関してはいろいろと悩みがあるといいます。特に、料理を自分で作れないために、自分の完成させたい味、あるいは客からの要望などをそのまま料理に反映できないことや、シェフの張さんと友好な関係を保ちながら自分の思う味に近づけていくことの難しさが悩みであるそうです。
しかし、「私は中国の人びとと30年以上もつきあっているので彼らをよく理解できますが、張さんは日本にきて間もないので、日本人のことがよくわからなくて当然です。ですから、ある程度こちらが気を遣うことが必要です」。
張さんとはほぼ毎朝ミーティングを行い、客からの指摘を検討して1つひとつ直していくようにしているということです。

「もっと大きい店を出してみたいですね。もちろん、新しい横浜らしさを携えて。」

今後の抱負について伺うと、「この店を軌道に乗せたら、もっと大きい店をやってみたいですね。大きくするにはコース料理を広げていくことが必要になり大変だと思いますが、1軒だけではビジネスにならず、利益を上げられません。道楽で終わらせたくはないんです」とのこと。
さらに、「私が立ち上げた横濱まちづくり倶楽部の目標の1つは、新しい横浜を創っていくことです。新しいものをどんどん取り入れてミックスした『辣』のようなレストランも、新しい横浜に向けた提案の1つだと思っています。こうしたものが、ヨコハマ・スタイルとして認知されていくことが最も大切です」と熱く語ってくださいました。
近澤さんの豊かな発想力と力強い行動力、そして横濱まちづくり倶楽部の確かなチームワークが完成させた「辣」。皆さまもこの店でぜひ、横浜の新しい風を感じてください。



★「辣」店長・蓮尾祐輔さんからのメッセージ★

写真_5 横浜の中華街にある中国料理店ですが、他の店とはかなり異なったコンセプトを打ち出した個性的な店です。店の外観自体も特徴的で、スタイリッシュですが、若い方や女性が1人でも入りやすいような雰囲気づくりを心がけています。
カジュアルに中国料理を楽しむこともできますし、お酒も数多くの種類を用意しておりますので、ふらっと立ち寄って1杯飲むこともできます。お気軽に、ぜひ一度お越しください。




インタビューを終えて

■「辣」の取材では、中川さんと佐々木さんとのコラボレーションが生み出した斬新なデザイン、洗練された雰囲気が強く印象に残りました。しかし、それに勝るとも劣らず、近澤さんのこだわりを張さんの優れた技術が具象化した料理の数々も印象的です。それは、とにかく美味しい。決して奇をてらったものではなく、本場の味をしっかりと再現したものなのですが、今までに食べたことがないような中国料理です。特に、私の大好物でもある麻婆豆腐は一度食べたら忘れられない、麻薬のような逸品でした。
また、近澤さんが提案する「四川・湖南料理を取り込んだ現代の上海料理をスタイリッシュに楽しむ」という中国料理の新しいスタイルも非常に魅力的であり、私のような若い世代にとっても十分に新鮮なものです。私は静岡の出身ですが、「これこそヨコハマ・スタイルかな」と、妙に納得させられました。皆さまにも、一度行ってみていただきたいお店です。
(横濱まちづくり倶楽部会員・杉山 卓)

■インタビューの中では、近澤さんの中国に対する深い理解と「新しい横浜を創る」ということへの強い思い入れが、私の心にとりわけ強く残りました。近澤さんの中にそうしたものがあったからこそ、ここ横浜中華街に、上海で流行の最先端を走っているような店を開くという発想が生まれたのだと思います。
おしゃれなカフェかバーを思わせるモダンな店づくり、斬新で躍動的なロゴ・マーク。しかし、そうした店の中では、高級調理師である張さんが確かな技で、黙々と調理場に向かって作りあげた本場の料理が出される。この意図されたアンバランスが「辣」の魅力です。
そして、あの強烈な麻婆豆腐。近澤さんは私たちに、「この麻婆豆腐は辛いけれど、食べると病みつきになるよ」と言われましたが、その言葉のとおりです。私は辛い料理が苦手なのですが、辛さの裏に豊かな香りと旨みがある「辣」の麻婆豆腐は、そんな私にも「確かにうまい!」と言わせます。不思議な魔力のある麻婆豆腐を、ぜひお試しください。
(同・望月裕也)

■横浜中華街にある他の中国料理店に見慣れていると、「辣」のスッキリとした店構え、ハイセンスな店内にはやはり驚きを感じます。しかし、それらによって醸し出される洗練された雰囲気とは裏腹に、スタッフの方々はフレンドリーで、私たちをアットホームな気分にさせてくれます。
「おしゃれだけれどもフレンドリー」、それが近澤さんのたどり着いた「ヨコハマ・スタイル」に対する1つの答えなのではないかと思います。そうであるとすれば、私はこの「ヨコハマ・スタイル」がとても気に入りました。
また、私が強く感銘を受けたのは、近澤さんの横浜に対する熱い想いです。自分が生まれ育った街を愛し、そして誇りに思い、その街をもっとよくしたいという気持ちを持てるということは、すごく素敵なことだと思います。そうした近澤さんの想いと、中川さんや佐々木さんの研ぎ澄まされた感性、張さんの一流の職人技がみごとに一体となった「辣」。横浜中華街の中ではまだ新星の1つかもしれませんが、この街にあるべくしてある店です。
(同・田代 瞬)

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