「よき妻であり、よき母親であり、家族のために快適な家庭をつくる美的センスのある女性」というのが、子供の頃からの理想であったという加藤さん。女子美術大学を卒業後、1968年に結婚され、3人のお子様を育てられたそうですが、「なかなか理想どおりには行きませんでした」とおっしゃいます。 1974年、ご主人が横浜駅西口の相鉄ジョイナスに紅茶専門店を開店され、さらに83年には馬車道通りに、料理とお菓子にも力を入れた店を出されます。加藤さんはその間、専業主婦として過ごされていました。 ところが1985年、不幸にもご主人が突然他界されてしまいます。こうして、加藤さんの経営者としての人生がスタートします。 それ以後、1991年には相鉄線の弥生台(横浜市泉区)に菓子工房「パティシエ・サモアール」を開店、95年には馬車道店を拡張、店を利用したサロン・コンサートを定期的に企画・開催、2002年には相鉄ジョイナスの本店を完全リニューアル、と邁進されてきました。 いざ、経営者として表舞台に立ってみると、「実は外で働くほうが自分にあっていたようです」とのこと。いつも明るく、前向きな加藤さんです。 |
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| 小さいころは、お父様の仕事の関係で引越しが多かったという加藤さん。戦時中に生まれたため、秋田に疎開していたこともあり、小学校も転々としたとか。その後、絵が大好きであったので美大に進み、卒業してからは絵の先生をしていたそうです。そして、絵の先生をする一方でさまざまな仕事にも携わりましたが、結婚し、家庭に入られます。そんな折、昭和49(1974)年にご主人が紅茶専門店「サモアール」を、横浜駅西口・相鉄ジョイナスにオープンしました。当時、紅茶の専門店は珍しく、女性客の心をしっかりとつかんだということです。「女性が多くて、男性は入りにくかったようですよ」と、加藤さんは当時を振り返ります。 |
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 昭和58(1983)年に馬車道店がオープンし、紅茶専門店として多くのファンを抱えはじめたころ、ご主人が他界されてしまいました。ご主人との思い出がいっぱい詰まったサモアールを、このまま閉めてしまうのは偲びないと感じた加藤さん。そのときまでは専業主婦であったのですが、経営者としての第二の人生を歩みはじめます。しかし、店の経営をしながら子育てに追われる日々のなかでは、店に対して十分に力を注げなかったそうです。子供が成長し、手を離れるにしたがって、店の方向性やこだわりを深く考えることができるようになったといいます。 |
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| 紅茶とともにティーカップも楽しんでもらいたいという考えから、サモアールでは同じティーカップは2組までしかそろえていません。そして、お客様が数人で訪れた際には、それぞれ異なるティーカップで紅茶をお出しし、楽しんでいただいているそうです。紅茶の透きとおったオレンジ色を通して見るティーカップの表情は実にエレガントで、それを楽しみながら飲むことはコーヒーにはできないと加藤さんはいいます。 |
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サモアールの顔である紅茶は、細心の注意を払ってお客様にお出ししているということです。店には常時100種類以上の紅茶を置いているそうですが、それらはそれぞれ異なる性質を持っています。蒸らす時間や紅茶の色の出かたは千差万別で、ウエイターの方々はそれら1つ1つの特徴を熟知しています。 紅茶を注文すると、コジーをかぶせられた状態でティーポットが席に運ばれてきます。しかし、あらかじめ暖められているカップやソーサーは蒸らす時間が終わる直前まで運ばれてきません。やがて、絶妙のタイミングをはかってウエイターの方がカップに注いでくださる紅茶の香りは、他店では決して味わえないような奥深さを持っています。 |
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| 近年のカフェ・ブームの影響もあり、テイクアウト・サービスを考えたこともあったそうですが、紅茶を最もよい状態でお客様に提供するには望ましくないため、導入を見送ったといいます。30年間変わらず、最高の紅茶を提供するスタイルを守り続けてきたサモアール。このような加藤さんのプロフェッショナルとしての信念のもとで、これからもその歴史を紡ぎ続けていくことでしょう。 |
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 サモアールは加藤さんにとって、好きな絵画を飾ることもでき、とても楽しく、居心地のよい空間であるといいます。オーナー自身が楽しみながらつくりあげた空間の居心地のよさは、客として訪れる人びとにも伝わります。サモアールは、繰り返し訪れるお客様が多いそうです。 若いころに店に通ってくれた人が10年、20年たってから娘と一緒にふと訪れ、あの頃と変わらない雰囲気と紅茶を楽しみ、思い出話に花を咲かせながら「懐かしい」と言ってくれることが何よりもありがたく、それが何よりも自分のパワーになると、加藤さんは語ってくれました。 |
横浜の食案内「サモアール」はこちら

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■何十年たってきたお客様にも「懐かしいね」と言ってもらえるよう、店構えだけでなく、料理や紅茶の「味とスタイル」を維持し続けていくという加藤さんのプロフェッショナルとしての姿勢に深く感銘を受けました。そして、優雅で安らげる空間のなかでいただいた紅茶とオムライスに思わず心を奪われ、取材できたことを忘れそうになるくらいにくつろいでしまいました。 (横濱まちづくり倶楽部会員・杉山卓)
■喫茶店受難の時代にもかかわらず、この馬車道で30年もの長い間サモアールが喫茶店として多くのファンから愛され続けているのは、オーナーである加藤さんに、店として守るべきものと変えていくべきものとがしっかり見えていたからだろうと感じました。大切なものを見極め、それを守りぬく強い意志によってこだわりの味が生み出され、柔軟性のある考え方によって、単に喫茶だけでなくいろいろな楽しみ方ができる店になっているのだと思います。 (同・平野順弘)
■サモアールは、喫茶店のオーナーとしての顔とアーティストとしての顔とをあわせ持つ加藤さんが創り出した絶妙な空間です。そこは、ゆったりとくつろげるオーソドックスな喫茶店としての雰囲気と、優雅でアートな雰囲気とが共存しています。そして、この空間を効果的に演出しているのが、加藤さん自身が見立てたという茶器や絵画、そのほかの調度品の数々です。この店こそ、加藤さんが長い時間をかけて創りあげた最高の傑作なのではないでしょうか。 (同・坂本紘一)
■サモアールは30年の歴史を持つ喫茶店ですが、私はむしろ新鮮さを感じました。私たちがよく利用している喫茶店やカフェは、どれも似たようなスタイルで個性がありません。サモアールはコーヒーではなく紅茶がメインであるという珍しさ、加藤さんのセンスが光る茶器や食器類、細かい心配りをしてくれるウエイターの皆さんの接客など、すべてが個性的です。歴史によって生み出されたそうした個性は、他店には決して真似できないものでしょう。 (横浜商科大学学生・星野まどか)
■馬車道は「大人の街」というだけあって、その街にあるサモアールも「大人の店」という雰囲気を漂わせています。また、何よりも驚いたのは30年もの間、時代や流行に流されずに店のスタイルを維持し、自分流を貫き通している加藤さんのこだわりです。そのこだわりは、紅茶やティーカップなどだけではなく、店づくり、客への気配りにまで行き届いており、喫茶店という粋を超越しているように思われます。何度でも足を運ぶ人が多いということが納得できます。 (同・松原隆行)
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